文書へのアクセスログ

同じく、ナレッジ!?情報共有・・・永遠の課題への挑戦のエントリー『ログを活用することで行う「見える化」とその効果』より

KMツールの文書共有メニューには、社内のノウハウである各文書へのアクセス履歴とこれまでの合計件数が表示されるようになっている。

文書ごとのアクセス合計件数を使うことで社内のノウハウのうち利用率の高いものをピックアップすることができる。・・・皆が注目している情報は、顧客からの注目の高い情報であったり社内で見逃してはいけないノウハウである可能性が高い。アクセス件数という指標をとおして今はやりの集合知を活用することができるのである。

アクセス件数をクリックするとさらに細かく各ファイルをダウンロードした人の名前の一覧が表示されるようになっている。・・・私も外部で講演した資料や提案書をこのシステムに登録することがあるのだが、この資料をダウンロードした同僚が随時把握できるのでこの情報を使って、見込み客やリードなどが足りない時にこちらから逆にダウンロードした人に利用用途を聞くことが出来るのだ。私のようにプロダクト担当の営業・マーケティングをしている立場の人間にとっては、実際にマーケット別の担当営業を介して実際の顧客先に出会うための嬉しい仕掛である。

 文書は,作成した人にとって固有の知識である.それを自ら再利用するならばアクセスログは必要ない.しかし,組織全体で知を普及させることが必要なら話は別だ.
 固有の知識を他の条件下(部門,地域が異なるなど)で利用可能になるためには,作成者かあるいは他の誰かが,その知識を汎用化しなければならない.もちろん,その知が再利用されると想定できる条件の幅の中で汎用化すれば良く,あらゆる条件に通用できる普遍的な知を創り出す必要はまったくない.
 しかし,汎用知化の努力にはコストが伴う.作成者が時間をかけて自分の知識を利用できる人を想定して知識の汎用度を上げていくという行為を持続的に遂行させるには,利用者から何らかのリターンがなければならないだろう.組織外では,汎用化の努力に対するコストは原稿料や講演料という形で回収できることが多い.他方,組織内ではそのような回収方法はむずかしい.かつては,これと類似した方式で知の価値を決定し,利用料を知の提供者に渡す.あるいは,提供や汎用化を人事考課に結びつけることによって価値化していた.さらには,知の無償提供を組織の文化の一部にするという工夫もされていた.

 しかし,上のエントリーでは,利用それ自体から価値を決定させるというものだ.作成者は自らの必要で文書を作成する.それを共有ホルダーに入れておくだけ.利用したもののログが残る.閲覧だけの文書.ダウロードまで進む文書.その順で価値が高まっていく.さらに,利用ランキングは本の売り上げや数多く引用された学術論文のランキングと同様に,集合知となる.作成者は作成する意義があるから作成しただけ.利用者は利用する意義があるから文書をダウンロードしただけ.しかし,「利己が利他を生む」ことになる.Web2.0の特徴の一つである.

 Web 2.0時代の重要な教訓のひとつは、ユーザーが価値を付加するというものである。しかし、自分の時間を割いてまで、企業のアプリケーションの価値を高めようというユーザーは少ない。そこで、Web 2.0企業はユーザーがアプリケーションを利用することによって、副次的にユーザーのデータを収集し、アプリケーションの価値が高まる仕組みを構築した。前述の通り、Web 2. 0企業のシステムは、利用者が増えるほど、改善されるようになっている。


 価値を決めるメカニズムを集合知に任せることが第一の特徴であるが,上のエントリーはさらに重要なことを指摘する.それは,ダウンロードした人の知の利用の仕方を利用者から直接聞き出すということだ.固有知を利用した人は,その条件に合わせて何らかの修正を施すはずだ.条件が異なるから.その異なった条件と,その条件で適用された知の効果や結果を聞き出すことにより,固有の知の汎用性を,ほんの少し(時には一挙に)高めることができる.このことは,KMツールがなくても可能であったかもしれないが,利用者を簡単に特定できること,さらには利用者の所属部門や得意先などが分かれば,どの人と交流すれば知をもっとも効果的効率的に高度化・汎用化できるかがすぐさま決定できる.「個別の交流が知を高度化する」.昔からあったことだろうが,その手段は劇的に変わってきている.そんなことが上のエントリーから感じられた.