経営学のあり方

 経営の実践、コンサルティング経営学との関係を探る上でのメモ。

01.ゲノム医科学の誕生とトランスレーショナルリサーチ

トランスレーション(translation)とは文字通り解釈すれば翻訳です.トランスレーショナルリサーチとは,広い意味で,基礎科学分野において発見された法則を,応用分野における科学技術のコトバに翻訳することであると考えられています.

医科学分野でのトランスレーショナルリサーチは,経験科学である臨床医科学の定量化および臨床医科学における既存の経験法則を逐次改善していく,という帰納的方法と,ゲノム科学や生命科学一般から由来する演繹的方法を用いて,臨床応用可能な新しい診断法や新しい治療法を目指す,という両面から確実に行われる必要があるでしょう.つまり,トランスレーショナルリサーチは,20世紀の後半に登場した演繹的な厳密科学の方法と,臨床医科学という古代に淵源する経験科学の,相互翻訳と融合の場となる必要があり,単なる知的好奇心によるだけではなく,むしろ,現に病気で苦しむ人たちのために役立つ新しい診断法や治療法の発見を目指して行われる必要があるのです.

 医学と経営学は、形式は似ている。

問題を抱えている人 それを解く人 解くべき解を生成・創造している人
患者 臨床医 基礎研究者
実務家 コンサルタント 経営学

 医学では、臨床と基礎の間の溝を埋めようとトランスレーションなる考え方を導入してきている。経営学ではどうなのか。

 元来、実務家は経営学を役に立たないと思っている。経営学が基礎研究であるというなら、それは正しい。なぜなら、今病気を患っている人にとっては、将来の治療に役立つ基礎研究を役に立たないと思うのと同じだからだ。しかし、後者は今役に立たないと思っていても、将来役に立つという期待はあるだろう。それに対して、経営学はどうだろうか。実務家から期待を寄せられているのだろうか。


 経営学者自身はいったい誰と対話しているのか、あるいはしたいのだろうか。言い換えれば、自分を臨床医だと思っている(思いたい)のか、基礎研究者だと思っているのかということだ。臨床医なら患者との対話が主であるし、基礎研究なら臨床医との対話と同じ基礎研究者との対話が主となるだろう。もし学者が臨床医と思っているなら、同じ臨床医であるコンサルタントとの対話をなすべきであるし、もっともっと現場に近く、患者とともに過ごす時を多くすべきだ。治療にも専念すべきである。


 経営学者が基礎研究を行う者として自らを考えるなら、上の医学の例から敷衍すると、もっと基礎研究に精を出して基礎理論を多く創造すること、臨床医たるコンサルタント向けに基礎理論をトランスレーションすること、そしてコンサルタントの経験の中から協同して理論を抽出することになる。





 ここまで来て、経営学部はいったい何を教育しているのかという疑問が湧いた。臨床医になれるような人を教育しているとは思えない。医学の例でいえば、免疫力を高めることが目指されているのだろうか。経営体(企業、NPO、公共団体等)の体内に免疫パワー(を持つ学生)を注入する。その結果、経営体は自己免疫力が高まり、問題を抱えても自分で解決ができることになる。
 しかし、それはうまくいっていない。経営体、特に企業は学生を自分の免疫系に役立つように再(?初かも)教育を自らの手で施しているからだ(MBAは特に自己免疫力が強い学生を育成する仕組みかもしれない。あまりにその力が強すぎて、アレルギーを引き起こしたり、外部の侵入者ではなく自身を攻撃して体力を弱めるという副作用が出てくるかもしれないが)。


 また、臨床医たるコンサルタントコンサルティング企業で育成されている。ここでも、医学部ほど大学の役割は多くない、卒業生を送り込む以外は。

 
 では基礎研究者の養成という点で機能しているのだろうか。結局は、米国の理論が持ち込まれることが多そうで、この点でも経営学部・大学院は機能を果たしていないように外からは見える。

 なんだか、絶望的だ。_| ̄|○