消費者の経験

 プラハラードらの『価値共創の未来へ―顧客と企業のCo‐Creation』の内容を以下のように理解した。
         
      組織間システム革新
           ↑    (現在:企業主導)
           ↑  事業アイデア革新(開発)
                  ↓
               技術革新(開発)
           ↑  (人+システム)革新(開発)
                  ↓
           ↑   製品/サービス革新(開発)
                  ↓
           ↑   消費者の経験革新(開発)
           ↑      ↑(製品/サービスの組み合わせ)
           ↑      ↑
          共創    消費者 (以上により、満足の向上)


 「読み終えつつある本」で概観したが、消費者は従来企業から与えられた製品/サービスを利用するしかなかった。一つの製品/サービスでは経験が構成されないとすれば自らそれらを組み合わせて創り出す必要があった。

 組み合わせたい、あるいは不要な機能を外して必要な機能を組み込みたいとする消費者の要求は、価値観の多様化とか個客化という呼び名で、企業側に認識され多様な選択肢の提供という形でそれに応えた。
 
 とはいえ、やはり企業からのお仕着せであることを嫌がる一部の消費者は、経験そのものを自ら組み立てたいと考え始め、企業と共創による経験の構成・組み合わせが始まる(経験の共創)。
 この場合は、製品/サービスの構成・組み合わせに関与するレベルであるが、さらに、意図的ではないかもしれないが、企業活動を下流から遡り始めるようになる;製品/サービスの開発から、技術の開発へ、ついには、事業アイデアの開発へと(共創の経験)。
 
 共創経験する消費者と、経験共創する消費者が増すにつれて、企業はまずそれぞれの革新や開発を変えていかなければならないだろう。それは、『価値共創の未来へ』を読んで欲しい。また、消費者の個別の価値を実現するために、より自らの活動に多くの参加者を呼び込まざるを得なくなる。プラハラード達が述べている「経験のネットワーク(個々独特の価値の共創を実現するためのインフラ)」を作らなければならないからだ(最小多様性による対応か、レゴのような組み合わせ対応−−最小多様性対応より多様度を低くできる−−か)。組織間システムの革新が誘発されることになる。


 しかし,多彩な経験一つ一つを変えていくのは理想的だがきわめてむずかしい.経験を包括して生じさせる環境*1の革新ならば可能であろう.ただし,その包括的な環境という一般化されたものの革新では、今度はその中で生み出される経験の個別性が失われてしまう。そのため再び経験を個別化(パーソナル化)し直さなければならない。ここでは、経験環境との接し方と、経験あるいはイベントの意味合い・意味づけというものが重要となる。


 企業側からすると、経験環境の構成、接点や接し方まではコントロール可能な範囲だが、「共創経験のパーソナル化を支えるきわめて重要な要素である」(p.134)意味合いは消費者各人の領域である。そこで、できることと言えば、「各人が自分らしいやり方で経験環境と関われるようにお膳立てをし、消費者の多様な関心、知識、ニーズ、望みなどに応えること」(p.135)になる。ここまでなら、従来のマスカスタマイゼーションの考え方に近い(もちろん、企業中心か、企業と消費者との共創かという考え方の違いがかなり大きいのだが)。もう一歩先に進むには、非常に個人的な「意味合い」「意味づけ」に応えて、「その人だけの経験(experience of one)」(p.138)を実現できるかどうかである。 

*1:経験環境(p.94):①製品,サービス,個人と企業の接点(多彩なチャネル,方法,従業員,コミュニティ)などで構成;②さまざまな個性を持った個人による,特定文脈での多彩な経験に対応,『価値共創の未来へ―顧客と企業のCo‐Creation