わかりやすさとは

大学教員の日常・非日常のエントリー「畑村式「わかる」技術」経由、藤沢晃治氏の「街に氾濫する分かりにくさ 」は、なかなか面白い。

認知心理学では、人間が外界からの情報を処理する際、情報が最初に処理される場所を短期記憶と言い、短期記憶で処理し終えた情報が最終的に格納される場所を長期記憶と呼んでいます。私は覚えやすいように短期記憶のことを「脳内関所」、長期記憶のことを「脳内辞書」と呼んでいます。

どうすれば分かりやすくなる?
結論を先に言ってしまうと、外界の情報が私たちの脳内辞書に届いて格納される瞬間が私たちの「分かった!」「そういう意味か!」と感じる瞬間なのです。さらに、その「分かった!」の瞬間がなるべく早く到達するような情報が「分かりやすい情報」です。そのためには、当然、脳内関所での外界情報に対する審査処理が円滑に行われることが必要です。次に、一体どのように情報発信したら、この脳内関所での審査が円滑に処理されるのかを紹介しましょう。

相手にとって分かりやすい文章を書いたり、分かりやすい説明をするためには相手の脳内関所を通過しやすいように情報を加工すればよいのです。

先に映画館に入っていたあなたが、遅れて映画館に入ってきた友人を館内入口で出迎えるシーンを考えてみましょう。上映中の館内は、すでに照明が消され、真っ暗です。映画館に先に入っていたあなたは、目が暗闇にすっかり慣れているため、通路などもよく見えます。そのため、友人も通路がよく見えているものと勘違いし、あなたは、その友人を座席までササッと足早に誘導しようとします。その友人は、足早に誘導されても、真っ暗なので歩くのもおぼつかなく、つまずいて転倒でもしないかと恐怖さえ感じているのです。


説明も映画館と同じ
このような光景は、業務上のプレゼンテーション、友人との雑談等、様々な説明シーンで日常的によく見られる光景です。つまり、説明する側の視野だけが明るくて、説明される側の視野が当初、まだまだ暗いために起こる悲劇です。あなたが説明者である場合を想定してみましょう。説明者のあなたは、説明したいテーマを自分自身では熟知しています。つまり、あなたは、映画館に入って随分と時間が経ち、目が暗闇に慣れている人です。一方、今日、初めてあなたの説明を聞く人は、そのテーマに関して、「たった今、映画館に入ったばかりの人」なのです。友人の視野が最初は暗いことに配慮し、つまずいて転倒しないように、友人の目が暗闇に慣れるまで待ったり、最初はゆっくり歩くなどの配慮をしましょう

分かり過ぎて、分らない」の意味を説明しましょう。「ある事柄をよく分かっている人は、その事柄を知り過ぎているため、逆にその事柄をよく知らない人が何を分らないのかを理解できない」という意味です。

知れば知るほど、失われるもの
パソコンの精通者では、こうはいきません。初心者だった頃の自分の発想、苦労などは、すでに記憶のかなたで、実感に乏しく、ほとんど他人事(ひとごと)です。結果として悪意はないものの初心者に不親切な入門書ができあがってしまうでしょう。あることに精通していく過程で、得られるものと、失われるものとがあります。パソコン習熟の過程でいえば、得られるのはパソコンの知識であり、失われていくのは初心者の発想なのです

「分かりやすい説明」の技術 最強のプレゼンテーション15のルール ブルーバックス

「分かりやすい表現」の技術―意図を正しく伝えるための16のルール



大学教員の日常・非日常のエントリー「畑村式「わかる」技術」 のまとめもわかりやすい。

まとめ

・「わかる」ためには、頭の中にテンプレートがないといけない
・テンプレートは、知識や経験からつくられる
・うちの大学は、受験用のテンプレートに特化された学生が多い
・「わからせる」ためには、テンプレートを意識することが必要