企業内のコミュニケーションの議論に使えないだろうか

陸域相互作用分野


 生態系の情報ネットワーク: 植物を食い荒らす「害虫」。しかし自然界には、その害虫を食べてしまう「天敵」もたくさんいます。この「植物‐害虫‐天敵」という関係は、生態系における生物間相互作用のひとつの基本的な単位なのです。私たちは、植物と害虫と天敵がつくりだす、複雑で不思議なシステムの仕組みを、「匂い物質」を使った生物間のコミュニケーションという新しい観点から研究しています。最近の研究の結果、「植物‐ハダニ‐ハダニの天敵」あるいは「植物‐鱗翅目幼虫(イモムシ)‐寄生蜂」といった相互作用システムでは、害虫の被害を受けた植物が、特別の「匂い物質」を放出して天敵を呼び寄せていることがわかってきました。つまり、植物は「匂い物質」というSOS信号を発することで、天敵に害虫を退治してもらっているのです。さらに興味深いことには、害虫の被害を受けた植物の近所に暮らしている別の植物たちも、この匂い物質を嗅ぎ付けて、害虫の攻撃に対する「防衛の準備」を開始するようなのです。つまり、植物と天敵が、また、植物同士が、匂い物質という信号を使って活発なコミュニケーション(情報交換)をしているようなのです。私たちは、「どのような害虫に攻撃されたときに、植物はどのような種類の匂い物質を生産するのか」、あるいは、「匂い物質の生産にはどのような遺伝子が関わっているのか」、といったことを詳しく調べ、この情報交換の仕組みを明らかにしようとしています。匂い物質を使った「生態系の情報ネットワーク」という新しいメカニズムを深く理解することで、人間と自然の共生にむけての大きな手がかりが得られるのではないかと私たちは考えています。